[SONY] ATRACのバージョンとMDLP対応機 [MiniDisc]
ATRACとは
ATRAC(アトラック:Adaptive TRansform Acoustic Coding)とは、SONYが開発したオーディオ非可逆圧縮、及び可逆圧縮の技術・規格名、及び後年開発された関連技術群の総称で、音楽用のミニディスク規格等で採用された。
関連:ATRAC (SONY)
取扱説明書にもATRACのバージョンが明示されていないことがあるので、面倒だが分解し、基板(メカ部)上のIC(CXD****)を見るのが確実である。
↑CXD2650R
バージョン間で互換性があるため、例えば、最初期のMD機器で録音されたMDディスクを、最後期の「ATRAC Type-S」搭載機で再生することは可能である。
その逆(新しい機器で録音されたディスクを最初期の機器で再生)も可能だが、MDLPで録音されたディスクは、MDLP非対応機種では再生できない。
「ATRAC用 DSP Type-R」に関しては、本ページ下部に記載してある。
MDLPとは
MDLPの登場以前は、ステレオモードではディスク時間、モノラルモードではディスク時間の2倍の時間録音できるが、80分のディスクであってもモノラルモードでは160分しか録れず、決して長時間とは言えなかった。
そこで登場したのが、MDLP(MiniDisc Long-Play mode)である。
データの圧縮率を高めたATRAC3を採用、従来の記録時間を約2倍にした「LP2」、約4倍にした「LP4」という録音モードが加わった。
・LP2:ステレオでディスク時間の2倍の録音が可能
・LP4:ステレオでディスク時間の4倍の録音が可能
以前では2倍の時間録ろうとするとモノラルにする必要があったので、AMラジオや会議などの録音に限定されていたが、MDLPではステレオで2倍/4倍録れるので、音楽でも長時間録音が可能となった。
・SP-STEREO:ATRAC 292kbps:ステレオ:1倍
・SP-MONO:ATRAC 146kbps:モノラル:2倍
・LP2:ATRAC3 132kbps:ステレオ:2倍
・LP4:ATRAC3 66kbps:ステレオ:4倍
LP2/LP4にはモノラルモードはない。
当然、ビットレートが下がるほど音質は低下するが、時間を優先するために、モノラルとなる「SP-MONO」を選択するしかなかった状況であったから、ステレオで2倍録れる「LP2」は歓迎された。
だが、MDLPはハードレベルでの対応が必要なので、MDLPで録ったディスクは、MDLP非対応のプレーヤーでは再生できない。
MDLPで録ったディスクを未対応機種に挿入すると、ディスプレイに「LP:」と、再生できないことを示す確認用のスタプが表示される。
以下にSONYの据置機に於けるMDLPの対応を示すが、MDLPに対応するのは、2000年以降に発売された機種であり、1993年に最初の据置機(MDS-101)が登場してから7年が経過、MDは既に衰退していた。
つまり、MDLPの登場が遅すぎたのである…
MDLPに関する追加情報に関しては、本ページ下部に記載してある。
ATRACのバージョンとMDLPの対応
・Ver.1.0(MDLP非対応):CXD2527
エラー制御に容量を割いていたため、録音時のビットレートが低く音が悪い。
MDS-101(1993年):CXD2527R-1
↑MDS-101(SONYのMDデッキ1号機) 96,000円
デッキ(据置機)としてはSONYの1号機であるが、先にポータブル機である「MZ-1」が、1992年11月1日に出ている。
↑MZ-1(1992年) 79,800円
なので、世界初のミニディスクレコーダーは、このMZ-1となる。
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・Ver.2.0(MDLP非対応):CXD2531
MDS-102(1994年):CXD2531BR
MDS-501(1994年)
↑MDS-102
MDS-102のカタログには「第2世代」とある。
MDS-101の低音質を認めることになるので、「第2世代でより高音質に」等の文字はない(笑)
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・Ver.3.0(MDLP非対応):CXD2535/CXD2536
MDS-S30(1994年):CXD2536
MDS-S35(1995年):CXD2535AR/CXD2535BR
MDS-302(1994年):CXD2536
MDS-303(1995年)
MXD-D1(1996年) CD+MD一体型
MDS-S1(1994年):CXD2536
↑MDS-S30
↑MDS-S1
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・Ver.3.5(MDLP非対応):CXD2536
MDS-JA3ES(1995年):CXD2536AR
MDS-503(1995年):CXD-2536B
↑MDS-503
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・Ver.4.0(MDLP非対応):CXD2650/CXD2652
MDS-S37(1996年):CXD2650R
MDS-S38(1997年):CXD2650R/CXD2652AR
MDS-JE500(1996年):CXD2650R
MDS-JE510(1997年):CXD2650R/CXD2652AR
MDS-JE700(1996年):CXD2650R
MDS-J3000(1996年):CXD2650R
↑MDS-S37
関連:[SONY] CDP-S35とMDS-S37のレビュー [CD/MD]
↑MDS-S38
関連:[SONY] MDS-S38のレビュー [MiniDisc]
↑CXD2652AR(MDS-S38)
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・Ver.4.5(MDLP非対応):CXD2537/CXD2654
MDS-S39(1998年):CXD2654R
MDS-S40(1999年):CXD2654R
MDS-JE330(1999年):CXD2654R
MDS-JE520(1998年):CXD2654R
MDS-JA30ES(1997年):CXD2537R
MDS-JA50ES(1996年):CXD2537R
MDS-JB920(1998年):CXD2654R
MDS-W1(1998年):CXD2654R ダブルデッキ
MXD-D2(1998年) CD+MD一体型
MDS-PC1(1997年)
MDS-PC2(1999年):CXD2654R
↑MDS-S39
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・Type-R(MDLP非対応):CXD2656
MDS-JA22ES(1998年)
MDS-JA33ES(1998年)
MDS-JE630(1999年)
MDS-JB930(1999年)
MDS-JA555ES(1999年)
MDS-DL1(1999年):CXD2656R i.LINKに対応
----- MDLP対応の壁 -----
・Type-R(MDLP対応):CXD2662R
ATRAC3に対応
MDS-S50(2000年) 幅280mm
MDS-JE640(2000年)
MDS-JE770(2001年)
MDS-JB940(2000年) 漢字・ひらがな表示対応
MDS-JA333ES(2000年) 漢字・ひらがな表示対応
MXD-D3(2000年) CD+MD一体型
MXD-D5C(2000年) CD5枚+MD一体型 漢字・ひらがな表示対応
MXD-D40(2001年) CD+MD一体型 CD-TEXT対応
MDS-PC3(2000年) 漢字・ひらがな表示対応
MDS-NT1(2001年) USB以外の入力端子がない
LAM-1(2001年) CD+MD一体型 USB以外の入力端子がない
LAM-Z1(2001年) CD+MD一体型(SP付) USB以外の入力端子がない
↑MXD-D40
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・Type-S(MDLP対応):CXD2664R
MDS-JE580(2005年) ヘッドホン端子がない
MDS-JE780(2002年) Net MD対応
MDS-S500(2003年) Net MD対応 幅280mm
↑MDS-S500
MXD-D400(2003年) CD+MD一体型
MDS-DAV1(2002年):CXD2664R DVDシステム(DAV-S880/DAV-S550)のオプション
ONKYO MD-133(2005年) 光デジタル出力なし
MDLP対応機
上に挙げたように、2000年以降に発売され、かつ、ATRAC用の「Type-R」DSPを搭載した機種がMDLP対応機である。
「Type-R」搭載機であっても、1998年や1999年の機種はMDLP非対応なので注意。
MDS-JA333ESは、MDLPに対応した最後のES機ということで、中古市場では高値で取引されている。
↑MDS-JA333ES(2000年) 100,000円 MDLP対応
上位機種(120,000円)であるMDS-JA555ESは、その前年(1999年)の発売であり、「Type-R」搭載だが、MDLP非対応!
↑MDS-JA555ES(1999年) 120,000円 MDLP非対応
上の表に於いても、MDS-JA555ESだけがMDLPのマークがないことが分かるだろう。
普通なら、ここで「Type-S(MDLP対応)」を搭載した「MDS-JAX3ES」や「MDS-JAX5ES」、そして19万円の最上位機種となる「MDS-JAX7ES」などを出すのだろうが、MDどころか据置機末期の状況で、そのようなものを出す余力はあろうはずもなく、MDデッキはなんとも中途半端な状態で終了となった。
2005年に発売されたMDS-JE580は、SONY最後の据置型MDデッキ(業務用を除く)であるが、
↑MDS-JE580(2005年) 55,000円
この時期の機種は、CDプレーヤーのCDP-XE570や、チューナーのST-SE570同様、デザインがイマイチ。
↑CDP-XE570(2001年) オープン価格
関連:[SONY] CDP-XE570の情報 [CDプレーヤー]
↑ST-SE570(2001年) オープン価格
MDS-JE580
・製造打切年:2009年3月
・補修用性能部品保有期間:8年
・修理対応終了年:2017年3月
修理対応終了年は過ぎているが、2022年10月時点では、故障箇所によっては修理を受けてくれる。
関連:[SONY] 製造打切年/補修用性能部品保有期間/修理対応終了年 [オーディオ]
機種選択
上述のように、MD最初期の機種(ATRAC Ver.1.0)は録音時のビットレートが低く音が悪いので、コレクターでもない限りオススメできない。
ステレオでも長時間録れるMDLP対応機種がオススメだが、ES機でなくても、中古価格が高い。
但し、幅280mmの機種である
・MDS-S50(2000年)
・MDS-S500(2003年) Net MD対応
は、再生中のピークメーターがないので注意!
これは、FL管のコストダウンのため、FL管のドット部分で、時間表示とピークメーターが兼用になっているだめだ。
↑MDS-S50 FL771 1-517-986-11 INDICATOR TUBE, FLUORESCENT
下の「7」の部分は、録音中はピークメーターになるが、再生中は「曲番 時間表示」や「曲名」になり、ピークメーターにはできない。
機能的には問題ないだろうが、再生中に動くのが時間表示のみとなり、面白味に欠ける。
あと、MDLP対応機はシルバーやゴールドモデルが大半なので、ブラックで合わせている人は困る。
Type-S搭載機は2002年以降の発売であるが、MDが既に衰退期に入っていたため、数が少なく、中古市場でも価格は高い。
光デジタル入力やサンプリングレートコンバーター、その他のポイントについては、以下記事下部「機種選択のポイント」を参照のこと。
関連:[SONY] MDデッキと対応リモコン一覧 [MiniDisc]
ATRAC用 DSP Type-R
ミニディスクの魅力は、その小さなサイズに、標準モードでもCDがそっくり収まってしまうコンパクトさにあります。
これを実現しているのが、音声圧縮技術のATRAC(アトラック:Adaptive TRansform Acoustic Coding)です。
MDのメディアとしてのデータ記録容量は、CDもおよそ5分の1。
このように使えるデータ量が限られているため、どのような信号入力に対しても同じように圧縮していたのでは、ひずみ感の悪化や量子化ノイズの増加を招きます。
高音質化を図るためには、人間の聴感に基づき、限られたビット数(データ量)を如何に有効に使うかが鍵になります。
新開発のATRAC用 DSP Type-Rは、処理能力を従来の2倍に高めたDSP。
そして、その高度な処理能力を生かしたインテリジェント・ビット・リアロケーション・アルゴリズムにより、スペクトラム変換された音楽データを「再分析」。
今まで発見が困難だった微小レベルの冗長なビット配分を徹底的にサーチし、聴感上重要な周波数帯域に「再配分」を行います。
これにより、ビット配分がさらにきめ細かく洗練され、元の音楽ソースの波形により近づけることができました。
ATRAC用 DSP Type-Rで録音したディスクは、DSP Type-Rを採用していないMDデッキでも再生でき、より美しい音質を楽しむことができます。
MDLP(MiniDisc Long-Play mode)
74分タイプのディスクでは、最長74分、80分タイプでは最長80分と、これまでステレオでのMDの録音時間は、ディスクに標記されている長さが限度でした。
MDLPは、ATRACをさらに進化させたATRAC3という最新の圧縮技術を採用、ディスク標記の時間の2倍および4倍のステレオ録音(再生)を実現したフォーマットです(2倍:LP2ステレオ録音・再生モード、4倍:LP4ステレオ録音・再生モード)。
ATRAC3では、高圧縮でも高音質を維持するため、圧縮処理に先立って、その前処理にあたる帯域分割とスペクトラムブロック化についても高精度化を図っています。
帯域分割は、これまでのATRACでは3分割(5.5kHzまでの低域、5.5kHz-11kHzの中域、11kHz-22kHzの高域)して次の回路に渡していましたが、ATRAC3では4分割(高域を11kHz-16.5kHzと16.5kHz-22kHzに分割)することで、処理に余裕を持たせています。
スペクトラムブロック化は、ATRACの2倍にあたる1024サンプルに細分化。
よりきめ細かく信号を見極めて圧縮を行う回路構成を採っています。
さらにATRAC3には、「トーン成分分離」というステップを新規に設けました。
トーン成分というのは、音楽を形成する上で重要な成分のことで、このトーン成分を抽出し、他の成分とは分離して符号化(圧縮)することで、高音質の維持を図っています。
MDLPは、ディスク上のデータ配置が従来からのフォーマットと異なりますので、互換性は下記表のようになります。
MDLPフォーマットでの高速録音は2倍速まで。
MDLPフォーマットで録音されたディスクは、S.Fエディットは行えません。
関連:[SONY] S.F EDIT(スケールファクターエディット)機能 [MiniDisc]
ワイドビットストリームテクノロジー
ワイドビットストリーム(WBS)とは、コアとなるATRAC用のDSPのダイナミックレンジと、デジタルイン・アウトなどの周辺回路のオーディオデータ語長を、MD規格の16ビットからより多ビット化し、ダイナミックレンジの広い録音・再生を行う技術です。
次の図は、24ビット精度レベルの微小信号を、ATRACが24ビットのタイプと16ビットのタイプで入/出力して比較したものです
24ビットのワイドビットストリームの方が、はるかにきれいな信号となっていることが分かります。
ワイドビットストリームの効果は、微小レベルの信号が含まれる、WBS対応MDソフトを再生する時に最も現れます。
さらに、アナログ録音や、20ビット出力以上のMDデッキからのデジタルコピー、CDからの録音の場合でも、ビット数に余裕のある分、より正確なデータ入/出力が行えます。
関連:[SONY] MDS-S37のレビュー [MiniDisc]
関連:[SONY] MDS-S38のレビュー [MiniDisc]
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