[SONY] TC-FX380(1984年発売)のレビュー [カセットデッキ]

2023年8月1日



どんどん過去に向かう、謎のカセットデッキレビュー(笑)

TC-FX380

1984年に発売された、SONYのカセットデッキである、TC-FX380を手に入れた。

TC-FX380_カタログ

価格は39,800円で、カタログ内で最も安い機種。

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1984年8月]

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1984年10月]

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1985年2月]

本機が、最後のTC-FXシリーズ?

関連:[SONY] ES/K/FX/R/RX/WR/WE/TXシリーズ [カセットデッキ]

1984年(昭和59年)

・かい人21面相(→2000年に時効、未解決事件となる)
・ロサンゼルスオリンピック
・英中が香港返還合意文書に調印(→1997年7月1日に香港が中国に返還)
・AppleがMacintoshを発表

(年齢は2022年1月時点)

・チェッカーズ(藤井フミヤ:59歳)「涙のリクエスト」「哀しくてジェラシー」「星屑のステージ
・中森明菜(56歳)「十戒(1984)」「北ウイング」「サザン・ウインド
・ALFEE(66-67歳)「星空のディスタンス
・薬師丸ひろ子(57歳)「メイン・テーマ
・一世風靡セピア(柳葉敏郎:61歳、哀川翔:60歳)「前略、道の上より

・吉川晃司(56歳)「モニカ
・小泉今日子(55歳)「渚のはいから人魚

今から38年前…

今や、みんな「爺サン婆サン」なのだが、人生100年時代(=死ぬまで働け)の令和に於いては、これでもヤング世代だ(滅)

カセットデッキでは、TC-K555ESIIが同時期。

TC-K555ESII_カタログ
↑TC-K555ESII(99,800円)

関連:[SONY] TC-K555ESIIとその開発 [1984年]

グッドデザイン賞

本機は1984年のグッドデザイン賞に選ばれている。

操作ボタン付近_TC-FX380

関連:1984年 グッドデザイン賞 テープデッキ TC-FX380

何が「グッド」なのか…モンドセレクションとは違うのか…(略)

機能

カタログ内で最も安い機種(39,800円)なので、機能は乏しい。

・フェザータッチオペレーション
・大型スライド録音ボリューム(REC LEVEL)
・キュー&レビュー(曲の内容を聴きながらの頭出し)
・SD(Super High Density=ハードパーマロイのSONYの呼称)ヘッド
・消去ヘッド:マグネフォーカス4Gap F&Fヘッド
・ドルビーNR Bタイプ
・オートスペース付きREC MUTE
・テープセレクトは手動式(I/II/IV)
・ピークプログラムメーター(FL管ではなくLED)
・ソフトイジェクト
・ヘッドホン端子(音量調整は不可)
・マイク入力端子(L/R)
・カウンターは数字がクルクル回る、アナログ式。
・テープ走行は片方のみで、リバースはない。
・MPX FILTERはない(低価格機での搭載はTC-RX55から)
・DOLBY HX PROはない(低価格機での搭載はTC-RX55から)
・テープ窓は手動式(低価格機での電動扉はTC-RX70から)
・テープ窓は光らない(低価格機での窓照明はTC-RX70から)

「フェザータッチオペレーション」とは、SONY曰く

軽くタッチするだけで、センシティブで快い操作フィーリングのフェザータッチオペレーション。
デッキを使う楽しさが指先からストレートに伝わってきます。
もちろん、信頼性も十分です。

とのことだが、単なるタクトスイッチなので、その後の機種を使った人にとっては、何ら珍しくない。

消費電力は10Wと、カセットデッキの中でもかなり低い方である。

関連:カセットデッキの消費電力と電気代

ヘッド

ヘッド_TC-FX380

SD(Super High Density=ハードパーマロイのSONYの呼称)ヘッドとのことだが、片方走行のため、安物のラジカセのヘッドに見える。

ピンチローラーはおそらく当時のものだが、掃除すれば使えそう。

カセットリッド

窓が広い。

カセットリッド_TC-FX380
↑SD REC/PB HEAD 4GAP F&F ERASE HEAD

爪が太いので、後の機種のように爪が細くてスグに折れるということはないだろう。

カセット窓_TC-FX380

カセット窓には銀色のシールが貼られているだけで、光らない。

内部

天板は、後のRXシリーズよりもしっかりしている。

内部_TC-FX380

基板は底板にある突起を折り曲げて固定するなど、造りが雑。

基板固定_TC-FX380

コネクタではなく直ハンダのケーブルが各所にあり、断線の危険性大。

直ハンダのケーブル_TC-FX380

LINE IN/OUTを固定しているネジの先端がハンダ付けされており、外せないという意味不明さ。

ネジ先端がハンダ付け_TC-FX380

基板裏面の前方右端には抵抗がハンダ付けされており、ケースにつながっている(=アース)ので注意。

基板裏面_TC-FX380

底板を外すことで、基板を外さずとも、裏面を見ることは可能。

底板を外した基板裏面_TC-FX380

後のRXシリーズなどでは、底板を外すことができない。

メカ部を外すには、前面パネルを外す必要があるが、底板を外した後、底面前方の3本のネジを外し、天面前方のツメ3箇所を外し、前面パネルを前に引き抜く。

操作ボタン群がメイン基板とつながっているので、先にコネクタを抜いておいた方が良い。

TAPE SELECTボタンは排他式だが、このボタンは排他機構が不良となり、ボタンを押しても保持されず、戻ってくる不良が多い。

TAPE SELECT_TC-FX380

前面パネルにある操作ボタンを外し、

操作ボタン_TC-FX380

分解し、

操作ボタン分解_TC-FX380

タクトスイッチに接点復活剤を流し込む。

タクトスイッチ_TC-FX380

接点復活王

関連:接点復活王(ポリコールキング,サンハヤト)

メカ部

メカ部は、前面パネルを外した後、4本の黒ネジを前面から外して取る。

メカ部(表)_TC-FX380
↑メカ部(表)

メカ部(裏)_TC-FX380
↑メカ部(裏)

メカ部から基板に伸びているケーブルはコネクタ式で、色分けされているので安心。

色分けケーブル_TC-FX380

モーターはマブチの「EG-510FD-2BF」で、12V 2400RPMのもの。

EG-510FD-2BF_TC-FX380

この1つのモーターで全てを動かしている。

フライホイールは1個で、(RXシリーズと比べると)重量があって質は高そう。

フライホイール_TC-FX380

フライホイールと隣のギアとの隙間がほぼないので、フライホイールが少しでも偏芯したらアウトだろう。

フライホイールと隣のギアとの隙間_TC-FX380

キャプスタンの軸受けは小さく貧弱で不安。

軸受け_TC-FX380

キャプスタンの表側のグリス漏れ防止用のワッシャーは、元からない?

2個の電磁石(ソレノイド)が見える。

ソレノイド_TC-FX380

茶色いグリスが各所に使われている。

茶色いグリス_TC-FX380

固着はしていないものの、拭き取ってシリコングリスを塗り直した方がよさそう。

シリコングリースメイト

関連:シリコングリースメイト ペースト

ゴムベルト

本機で使用されているゴムベルトは4本。

・平型:キャプスタン(フライホイール)
・角型:メカ部(横)
・角型:メカ部(縦)
・角型:カウンター

ゴムベルト_メカ部(横)_TC-FX380
↑メカ部(横)

ゴムベルト_メカ部(縦)_TC-FX380
↑メカ部(縦)

本機は片方走行なので、ゴムの掛け方に迷うことはないだろう。

モーターには、平型と角型の両方を掛ける。

2本のゴムベルト_TC-FX380

突起に仮に掛けておき、あとでピンセットで掛ける、よくある方法。

平型は、替えがないなら、紙ヤスリで磨いて使う手もある。

引っ張ると伸びてしまうので、磨く際には引っ張らないように。

キャプスタンベルトを交換したら、速度調整が必要。

モーター背面の穴_TC-FX380

モーター背面の穴にマイナスドライバー(2.0mm)を挿して回す。

メカ部内の角型は、まだ十分使えるようであっても、キツ目のものに変えた方がよい。

交換せずに使用したら、一時停止に失敗することがあった。

カウンター用は、右側のリールとカウンターに掛ける。

右側のリール_TC-FX380

リールを隠す目隠板は、このベルトを掛けた後で閉めると良い。

カウンターが回らないとテープ終端と判断され止まってしまうので、カウンターを使わないとしてもベルトは必須。

カウンター裏_TC-FX380

角型は、以下の小袋の中に数本使えるのがあった。

関連:ゴムベルト カセットレコーダー修理・保守・交換用

メーター

メーターはLEDであり、FL管ではない。

メーター_TC-FX380

この部分は、SHARP製の模様。

視認性は悪くないものの、さすがに粗すぎる。

カウンター

回転式。

カウンター_TC-FX380

右隣のRESETボタンを押すと「000」にリセットされる。

REC LEVEL

REC LEVELはスライド式。

REC LEVEL_TC-FX380

意外にもガリはなかった。

背面

背面は銀色。

LINE_IN OUT_TC-FX380

LINE_INとOUTのみ。

その他

カセットを入れなくても、ホルダーを閉じれば、再生/早送り/巻き戻しが機能するが、仕様?

カセットを入れて再生中もOPENボタンで取り出せるが、仕様?

早送り/巻き戻しでカセットハーフが動くので、カセットホルダーがテープを押さえ込めていない。

テープが動いていない限り(一時停止を除く)、モーターは回転していないので、待機時は静か。

再生時のモーター音が耳に付く。

底面の脚は、驚くほど小さく貧弱!

底面の脚_TC-FX380

だが、この時期の機種は、高級機を除いては、概してこんなもん。

左上のSONYのロゴは部品ではなく印刷!

SONYのロゴ_TC-FX380

関連:[SONY] エンブレムの種類と交換 [カセットデッキ]

また、この写真からも分かるように、電源ボタン周囲の緑は単なる部品で、光っているわけではない。

ロケットオープン対策

取り出しボタンを押すと、カセットホルダーが勢いよく飛び出してしまうのが、「ロケットオープン」だ。

短気な人には向くかもしれないが、その勢いでプラスチックが割れてしまう危険がある。

「ロケットオープン」の原因は、ピストン機構にあるゴムリングの劣化だ。

ゴムリング_TC-FX500R

対策は、同構造の以下参照のこと。

関連:[SONY] TC-FX500R(1982年発売)のレビュー [カセットデッキ]

関連:[SONY] ダンパー(ピストン)のゴムリング交換 [カセットデッキ]

ピンチローラーの交換

ピンチローラーの交換は、少し面倒。

カセットホルダーを外し、黒いワッシャーを外し、ピンチローラー一式を抜く。

ピンチローラー一式_TC-FX380

この時、付属する小さいバネに注意。

手前に打ち抜く。

打ち抜いたピンチローラー_TC-FX380

写真のように、穴を開けた木板の上でやると良い。

ピンチローラーのサイズは、RXシリーズ同様、左右とも13/8/2mmだ。

関連:[SONY] ピンチローラーの交換(型式と大きさ) [カセットデッキ]

仕様

・トラック方式:コンパクトカセットステレオ
・録音方式:交流バイアス(105kHz)
・ヘッド:消去×1(F&Fヘッド)、録再×1(SDヘッド)
・モーター:DCサーボモーター×1
・ワウ・フラッター:±0.07% W.Peak 0.05% W.RMS
・早巻き時間:約100秒(C-60にて)
・周波数特性:30Hz-15kHz ±3dB(ドルビーOFF、メタルカセット)
・SN比:55(EIAJ)-58db(ドルビーOFF、ピークレベル、メタルカセット)、65db(ドルビーB)
・歪率
 3次高調波歪率(315Hz):0.5%(メタルカセット)
 総合歪率 1.0%(メタルカセット)
・入力端子
 マイク(標準ジャック)×2 最小入力レベル 0.25mV ローインピーダンスマイク用
 ライン入力(ピンジャック)×2:最小入力レベル 77.5mV(50kΩ)
・出力端子
 ライン出力(ピンジャック)×2 規定出力レベル 0.44V(50kΩ) 負荷インピーダンス 10kΩ以上
 ヘッドホン(ステレオ標準ジャック)×1 規定出力レベル 0.3mV(32Ω)
・電源:AC100V 50/60Hz
・消費電力:10W
・大きさ:幅430x高さ105x奥行275mm
・重量:約4.0kg

・付属品
 接続コード(2)
 ヘッドクリーニング棒(1組)
 取扱説明書(1)
 保証書(1)
 サービス窓口のしおり(1)

EIAJ:日本電子機械工業会の略称

海外モデル

色等は異なるが、TC-FX320が近い?

機種選択

3ヘッドでもないのに片方再生。

後の片方再生には、TC-RX2000Tがあるが、あちらには録音図書という用途があるからね…

TC-RX2000T_カタログ
↑TC-RX2000T(2003年)

関連:[SONY] TC-RX2000T(2003年発売) レビュー [全国点字図書館協議会推奨]

他にも、テープ選択は手動、回転式のカウンター、メーターがLEDと、今さら本機を選ぶ理由はない。

ソレノイドによる瞬間的な動作音はまだしも、テープの走行音が大きいので、それも不快である。

関連:[SONY] TC-RXシリーズの変遷と比較 [オートリバース機]

関連:ESシリーズの変遷と比較(ESG→ESL→ESA→ESJ→KA*ES)

関連:2023年時点でも新品で手に入るカセットデッキやラジカセ、カセットテープ、クリーニングキット



Posted by nakamura