[SONY] TC-K555ESIIとその開発 [1984年]

2022年10月19日



TC-K555ESII

TC-K555ESII(1984年発売) 99,800円

TC-K555ESII_カタログ

TC-K555ESIIは、以下のカタログなどに見られる。

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1985年2月]

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1985年10月]

関連:[SONY] Hi-Fiオーディオ 総合カタログ [1985年10月]

関連:[SONY] カセットデッキ 総合カタログ [1986年10月]

TC-K555ESII_フルカタログ

開発着手

1984年に発売されたTC-K555ESIIは、1982年発売の前モデルであるTC-K555ESのデザイン及び機能をそのままに、音質と機能の向上を図ったモデルである。

TC-K555ES_カタログ
↑TC-K555ES 89,800円

精度の高いクォーツロック・サーボを採用したBSLモーターによるダイレクトドライブ、左右チャンネルにそれぞれ専用のドルビーNR ICによる、ツインモノ構造のオーディオアンプ、厳選されたオーディオパーツなど、徹底したシンプルかつストレートの設計思想のもとに開発された。

QUARTZ

原型であるTC-K555ESは、1982年の秋に発売され、音質と性能、操作性などの良さは、高い評価を受けた。

一方、同じ頃に登場したCD(コンパクトディスク)は、日が経つにつれてソフトの数も増え、CDプレーヤーによって再生される音は、アナログディスクとは違ったクオリティーの高さがある。

CDによるソースを録音、再生すると、アナログソースでは気にならなかった音の変化が気になるようになり、カセットデッキの音質と性能をさらに向上させる必要に迫られた。

カセットデッキの基本的な技術は、ほぼ完成されていると言えるが、オーディオ製品としてのデザイン、性能などの多様化のため、音質重視というものの、十分とはいえない面もある。

まして、音質については数値で表せない部分が多く、同じ部品でも、使い方によっては大幅に変わってしまう。

CDプレーヤーを例にとっても、スペックがほぼ同じにもかかわらず、機種によって音質が変わるというのも事実。

以上のようなことから、本機はCDによるプログラムソースの録音、再生による音質評価を中心に、技術の全てを、音質と性能の向上に振り向けて設計された。

システム各部

本機がどのように改善され新しくなったのか、従来のものと比較しながら、主な点を説明する。

メカニズム

MK II(マークツー)では、キャプスタン駆動に、リニアトルクBSLモーターによるダイレクトドライブ方式を採用している。

ダイレクトドライブ方式_TC-K555ESII

キャプスタン軸と一体になったフライホイールそのものがモーターとして動作動作するため、キャプスタンの回転精度はモーターを駆動させるサーボ回路によって決まる。

そこで本機は、サーボ回路に、水晶発振器を用いたPLL(Phase Locked Loop)方式を採用し、キャプスタンの回転精度は、一定の範囲で負荷に関係なく、水晶発振器とほぼ同じものが得られる。

これは、リール台などのトルク変化の影響を受けにくいクローズドループ デュアルキャプスタン方式と相まって、従来の間接ドライブ方式に比べ、カセットハーフの違いや、使用する室温の影響などを含めると、テープスピードの変化幅を約1/5に抑えている。

メカブロックは、モーターの回転やテープの走行など動く部分が多く、機械振動が発生する。

これは、メカ本体だけではなく、共振などによりアンプにも悪影響を及ぼす。

本機のキャプスタンモーターは、従来の1800rpmから360rpmになり、有害な振動やノイズが大幅に減少している。

これに加え、塾受け部の鋼板を3mm厚のアルミ合金板で補強したり、リールモーターの端子をフローティングさせるなどして、メカブロックの強化と防振対策をしている。

また、モーターを駆動させるためのサーボ回路は、従来はメカブロックに取り付けられていたが、本機では、クォーツロックの採用による回路基板の大型化と、より安定な動作を得るために、メカブロックから独立させた。

そして、本機のために新設計されたサーボICを中心に一枚の基板にまとめられ、十分に安定したパワーをモーターに供給している。

オーディオアンプ

本機のオーディオアンプには、録音系、再生系、安定化電源などが、1枚のプリント基板に構成されており、各アンプは、アースライン用の鋼板を中心に、左右のチャンネルが対称になっている。

対称型_TC-K555ESII

これは、ピンの配列が対称になった2個のドルビーNR IC、CX-20087/88をペアで採用することにより可能となったもので、左右各チャンネルの部品とプリント基板のパターンは、入出力の一部を除き完全に対称に配置構成されている。

このように、本機では徹底したツインモノ構成にすることで、従来は二枚の基板で構成されていたオーディオアンプは、余分な配線材やスペースがなくなり、一枚の基板にスッキリとまとめられた。

また、ツインモノの中心となっているアースライン用の鋼板は、電気的なものとは別に、プリント基板の補強も兼ねており、コンデンサなどのオーディオ部品が振動するのを防止している。

回路については、特に新しいものは採用せず、オペアンプと呼ばれている、ICかされた高性能DCアンプと、専用のドルビーNR ICを使用しているが、安定化電源だけは、音質上の理由から、大型部品を使ったディスクリート方式としている。

全体の構成として、MPXフィルターのオフでアンプをパスさせるなど、できるだけシンプルになるように各部を構成している。

以上のようなことから、このアンプでは、左右チャンネルの相互干渉や機械振動が減少し、音の低位が良く、安定した力強い低音と、クリアで伸びのある中高音が得られている。

電源・システムコントロール

セット全体を動作させるための電力を各部に供給している電源部は、音質的にも重要な部分である。

本機では、電源トランスをリアパネルに配置し、従来に比べ容量で約40%増の大型のものを採用している。

さらにオーディオ系の整流用ダイオードは大型のもので、大容量の電解コンデンサとともに、十分な余裕がある。

また、メカニズムやメーター表示などをコントロールする電源は、別系統の巻線と整流回路で駆動され、そのほとんどが安定化されており、音質への悪影響をなくしている。

システムコントロール部は、主にメカニズムの制御をしており、アンプのミューティングやタイミングなどを含め、本機のためにプログラムされたマイコンによって動作している。

録音、再生など、操作ボタンの信号は、マイコンと安定化された電源により、一層確実なものとなっている。

オーディオ部品

本機に採用されたオーディオ部品は、LC-OFC線材をコイルに使用したアモルファスヘッドをはじめとして、全て上位機であるTC-K777ESに実装して評価したもので、そのグレードはかなり高いものである。

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TC-K777ES(1982年発売) 168,000円

TC-K777ES_カタログ
↑TC-K777ES

この「TC-K777ES」にも、MK IIとして「TC-K777ESII」(1986年発売,168,000円)が出ることになる。

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以下、主な部品について記す。

アモルファスヘッド

従来から使用されていたアモルファスヘッドのコイル巻線に、LC-OFC線材を採用した。

このLC-OFC(リニアクリスタル無酸素銅)とは、第一種無酸素銅の結晶を熱処理により巨大化し、線材にする過程で引き伸ばしているため、結晶境界の数が少なく、容量リアクタンスによる音楽信号の劣化の少ない無酸素銅で、通常のOFC 1mあたり5万個を超える結晶が、LC-OFCにすることにより、数十個程度となります。

LC-OFCを採用したものでは、スピーカーコードなどが良い評価を受けている。

再生ヘッドのコイルには、0.1mm以下の線材を10m以上巻くので、LC-OFC線材による音質の向上は飛躍的なものである。

関連:[SONY] LC-OFC/PC-OCC巻線レーザーアモルファスヘッド [カセットデッキ]

さらに、独立懸架3ヘッド方式を採用。

TC-K555ESIIのヘッド

構造的には録音ヘッドと再生ヘッドは独立していながら、占有スペースはコンビネーションヘッドと同等。

均一なヘッドタッチが得られ、製造工程でアジマス精度が追い込める利点がある。

電解コンデンサ

電源をはじめとして、アンプの各部に使用されている電解コンデンサは、音質全体に大きな影響を与える。

本機に使用した電解コンデンサは、最近開発されたもので、電解紙や電解液に、セラミックスの微細な粉末を混ぜたものである。

電荷の移動が速く、電極の効率が良くなり、機械振動に対しても強いので、全帯域に渡ってクセがなく、大幅に音質が向上している。

また、信号系には、50V耐圧のものを使用するなど、全体に大型のものをつかい、音質の向上を図っている。

配線材

アンプなどの理想的な配置により、配線材を大幅に減らすとともに、ヘッドとアンプの接続など、残った信号系の配線材は、全てLC-OFC(上述)を使用している。

以上のように、新しく開発された素材などを十分に評価し、バランス良くセットに組み込むことで、クオリティーの高い音質を得ている。

構造レイアウト

本機は、従来のTC-K555ESと比べ、全重量で約0.5kg重くなっている。

これは、電源トランス、メカブロック、シャーシなどの強化によるもの。

構造としては、中央のフレームにより、オーディオアンプを完全にセパレート化すると同時に、メカブロックと電源トランスの重量を支えている。

また、電源トランスをリアパネルの外側に配置(=後方に飛び出ている)することで、各ブロックを理想的に配置することができた。

設計後

本機の計画は、1983年の初めに立てられた。

それまで手掛けていたTC-K777ESの設計が完了し、一息ついて、手元に届けられるオーディオ部品や新素材の音質評価をしていた頃のことである。

アナログディスクを使っての音質評価ではあまり差の出なかった部品を、発売前だったCDプレーヤー(CDP-701ES)を使ったCDソースで評価したところ、音質の差がハッキリするようになった。

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CDP-701ES(1983年発売) 260,000円

CDP-701ES_カタログ
↑CDP-701ES

第二世代のCDプレイヤーで、この世代から、CDプレイヤーのESシリーズが登場した。

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これは、CDによるプログラムソースのクオリティーが高く安定しているということであり、聴感による評価をある程度やり直さなければならないということである。

そしてこれは、オーディオ部品だけではなく、メカニズムやシャーシの構造についても当てはまる。

そのようなことから、CDによる音質評価を中心に設計を進めれば、かなり良いものを完成させられるという確信を持った。

商品化にあたっては、デザインと機能がシンプルなモデル(TC-K555ES)をベースにし、MK II(マークツー)として設計を開始。

オーディオ部品や新素材の音質評価は、CDによるソースとTC-K777ESに実装することにより、比較的快調に進んだが、一方では、限られたスペースの中に各ブロックを合理的に配置することが大変な作業になった。

TC-K777ESの構造とレイアウトを参考に各ブロックのバランスを取りながら作業を進め、数mm単位で寸法を修正し、各部の完成度を上げるという作業の繰り返しであった。

また、オーディオアンプに使われているプリント基板は、設計が完了してから、全体のバランスを見て、無酸素銅箔のものに変更された。

このようにして、当初の目標は達成されたが、技術の分野にはこれで終わりということはない。

一例として、ツインモノ構造のオーディオアンプは、どのくらい対称になっていれば良いのかは分からない。

左右の部品配置が数mm違っていても問題はないかと思うが、徹底して対称に配置された基板を見るのは気持ちが良いものだ。

このような思想が、隅々まで行き届いた時に、良い製品が生まれるのだろう。

本機は1984年の発売であり、1機種のみの選出である1985年のダイナミック大賞には入っていないが、大賞/優秀と複数選出されていた時期ならば、選ばれていただろう。

関連:長岡鉄男 ダイナミック大賞 カセットデッキ

TC-K555ESIIの仕様

トラック方式
 コンパクトカセットステレオ

録音方式
 交流バイアス(105kHz)

ヘッド
 消去(S&Fヘッド)×1
 録音(LAヘッド)×1
 再生(LAヘッド)×1 LC-OFC

 補足
 S&F:センダスト&フェライト
 LA:レーザーアモルファス
 LC-OFC:リニアクリスタル無酸素銅

モーター
 キャプスタンモーター(ダイレクトドライブ リニアトルクBSLモーター)×1
 リールモーター(DCモーター)×1

ワウ・フラッター
 ±0.04% W.Peak(EIAJ) ※
 0.025% WRMS

早巻き時間
 約90秒(C-60にて)

周波数特性
 ドルビーNRスイッチOFFにて

 TYPE IV カセット(ソニーMETALLIC)
 20-19,000Hz±3dB(EIAJ)
 20-14,000Hz±3dB(OVU録音)
 15-20,000Hz

 TYPE III カセット(ソニーDUAD)
 20-19,000Hz±3dB(EIAJ)
 15-20,000Hz

 TYPE II カセット(ソニーUCX)
 20-18,000Hz±3dB(EIAJ)
 15-19,000Hz

 TYPE I カセット(ソニーBHF)
 20-17,000Hz±3dB(EIAJ)
 15-19,000Hz

SN比
SN比_TC-K555ESII

ひずみ率
 315Hz、3次高周波ひずみ率 0.5%(ソニーDUAD) (EIAJ)
 総合ひずみ率 0.8%(ソニーDUAD、METALLIC)

入力端子
 ライン入力(ピンジャック)×2
 最小入力レベル 77.5mV(47kΩ)

出力端子
 ライン出力(ピンジャック)×2
  規定出力レベル 0.44V(47kΩ)
  負荷インピーダンス 10kΩ以上

 ヘッドホンジャック(ステレオ標準ジャック)×1
  出力レベル連続可変 3mW-0.003mW(32Ω)

電源
 AC100V 50/60Hz

消費電力
 28W

最大外形寸法
 430×105×330mm(幅/高さ/奥行き) (EIAJ)

重量
 6.6kg

付属品
 接続コード (2)
 ヘッドクリーニング棒 (1)

※ EIAJ(日本電子機械工業会)規格による測定値。

参考:TC-K555の流れ

TC-K555(1981年) 79,800円

TC-K555ES(1982年) 89,800円

TC-K555ESII(1984年) 99,800円

TC-K555ESX (1986年) 105,000円

TC-K555ESR (1988年) 105,000円

TC-K555ESG (1989年) 99,800円

TC-K555ESL (1990年) 99,800円

TC-K555ESA (1991年) 105,000円

TC-K555ESJ (1993年) 110,000円

TC-KA5ES (1995年) 98,000円

関連:[SONY] ESシリーズの変遷と比較(ESG→ESL→ESA→ESJ→KA*ES) [カセットデッキ]

関連:[SONY] TC-RXシリーズの変遷と比較 [オートリバース機]

関連:[SONY] LC-OFC/PC-OCC巻線レーザーアモルファスヘッド [カセットデッキ]



Posted by nakamura